コドモチョウナイカイ事務局 代表 式地香織 インタビュー
コドモチョウナイカイの核らしきものがぼんやり浮かんだのは、今から18年前、当時勤めていた伊東豊雄建築設計事務所で「イタリアと日本 生活のデザイン展」の会場構成を担当した時です。日本とイタリアの文化交流事業で、「家」、「こども」、「時間」の3つの切り口でイタリアのデザインを日本に紹介する企画展示でした。
この展覧会は、イタリア建築界の巨匠アンドレア・ブランジさんと伊東さんのふたりが総合監修を務める共同プロジェクトだったので、企画段階からイタリアと日本の双方で意見を出し合い、対話しながら展示をつくりあげていきました。コドモチョウナイカイのテーマにもなっている「協働」の大切さと面白さは、イタリアと日本をいったりきたりしつつ、みんなでアイディアを出し合いながら、ひとつの大きなランドスケ ープをつくりあげた、この時の体験がベースになっているかもしれません。
20代で担当させてもらったこのプロジェクトから学ぶことは多かった。その過程で「イタリアが世界に誇るデザインのひとつに教育のデザインがある」と教わったんです。当時のわたしには、「教育のデザイン」という言葉が新鮮でした。戦後、日本と同様敗戦国であったイタリアが復興のために力を入れたのが、幼児教育でした。なかでも、レッジョ・エミリアの幼児学校の取組みには、錚々たる建築家やデザイナー、アーティストが関わっていました。建築家の職能が、幼児教育の現場でも活かされるということに興味をもちました。
というのは、大学で共に学び、設計事務所や建設会社などで活躍していた友人が、出産を機に仕事をセーブしたり 、やめたりするのを目の当たりにしていたからかもしれません。豊かなキャリアを積んできた彼女たち。そのキャリアやスキルを子育てに活かしたら、「クリエイティブなこどもが育つのだろうなぁ。」と思いつつ、一方で、キャリアと育児を両立させながら、彼女たちが思い描くクリエイティブな教育環境を、実現することがとても大変である現状を、寂しくも思いました。
私が建築を面白いと感じているのは、建物や都市を「つくる」ことを前提に、社会を俯瞰するところなのです。無責任な批評や批判で終わらずに、社会の課題を、建築やまちづくりでクリエイティブに解決する、前向きに、愛情をも って社会と向かい合う姿勢が好きなんです。そんな視点や視座をもって、世の中をみつめたり、ながめたりすることで見えてくる世界をこどもたちにも伝えたいなぁ、とも感じていました。
そして、私自身が、出産を経験し子育てに奮闘しはじめた頃、恩師である伊東さんが、「NPO法人これからの建築を考える」を立ち上げ、その事業のひとつに、「建築塾」がありました。前期は「いえ」、後期は「まち」というテーマを通して、こどもたちの思考力や表現力を育むという発想に、とても共感しました。でも、当時娘は1歳半、参加資格のある10歳になるまではまだまだ長い道のりがありました。そこで、もっと小さな子どもが参加できる「子ども建築塾」のような場所がつくれないか、と考えたわけです。その時、大切にしたいと思ったのが、こどもと地域、社会がとの関わり、出会い。とはいっても、経済を知るとか、社会問題に取り組む、とかそういうことではない。
私自身が、こどもとの暮らしのなかで、地域と関わりをもつことが増えたんですよね。町内会とか商店街のおまつりに参加するようになるんです。知らなかったおじさんやおばさんが、こどもたちが楽しそうにしている姿を、微笑ましく見守ってくれる。こどもが最初に出会う社会は、これだ!とひらめきました。自分が属する社会に対する信頼感、肯定感。幼年期に社会との信頼関係を結ぶことができたら、とても素敵な大人に、市民になれるんじゃないかしら、と。
こうした思考のピースが時を経て、賛同してくれる仲間やきっかけを得て、コドモチョウナイカイにつながっていきます。コドモチョウナイカイは、全4回のワークショップを通して、こどもたちが思考の可視化や協働の喜び、難しさを学びます。この過程で、こどもたちの集団は「コドモチョウナイカイ」というデザインチームとしてチームビルディングを行い、その年のテーマに基づく「コドモチョウナイカイまつり」をつくりあげるのです。そこには地域の方やこどもたちが本物のお客さんとしてやってくる。こどもたちは、主体的に社会と関わり、お客さんの笑顔や楽しむ姿を通して、つくることの喜びや達成感を感じる。このプログラムをベースとした活動も今年で6年目を迎えます。
クリスマスマーケット、いきもの、宇宙、鳥と島につづいて、2018年のテーマは「ロボット」。
こどもたちの発想や思考と向かい合い、寄り添いながら、おまつりづくりのプロジェクトが進行します。2018年、こどもたちがつくりあげたのは「ロボットとともにくらすまち」、そのまちにはコドモチョウナイカイまつり史上最多の来場者が訪れました。
こどもたちが、パートナーとして考案したロボットたち。ロボットのいる空間、風景。ロボットとともに生きる都市、社会。フィクションではあるけれど、こどもたちの確かな発想力、創造力、そして構築力でつくりあげられた世界が、ほんの一日だけだけど、現実のものになったんです。こどもたちの言葉や表現でつくられた世界で、こどももおとなも未来を見る、とても素敵な体験ではありませんか?(インタビュー 沖本敦子)
式地 香織 建築家 女子美術大学 日本大学 非常勤講師
1973年生まれ。日本女子大学大学院修士課程修了。伊東豊雄建築設計事務所を経て、式地香織建築設計事務所設立。大学・専門学校等でデザイン教育に携わった経験が、自身の育児に生きているという実感から、デザイン教育と幼児・児童教育の親和性に着目し、子どもたちがチームとなって「デザインであそぶ・デザインでまなぶ」ワークシ ョップのコンセプト「コドモチョウナイカイ」を提案。趣旨に共感する仲間と共に子どもたちの想像性や創造力、そして存在の力を「地域力」につなげるようなプログラムづくりを目指している。9歳の女の子と夫の3人暮らし。
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